· 薬剤師たけすた · 健康 · 27 min read
水分は1日どれくらい必要か|薬剤師が便通の観点で考える
「水を2L飲んでいるのに、便は硬いままです」——こんな悩みはありませんか。水分は便に関わりますが、飲んだ量がそのまま便の水分になるわけではありません。量の目安と飲み方のタイミングを整理します。

「水を2L飲んでいます。それでも便は硬いままです」
水をこまめに飲み続けるのは簡単ではありません。それでも変化がないとなると、がっかりする気持ちもよくわかります。
サキさん便秘には水がいいと聞いて、毎日2Lを目標に飲んでいます。でも便の硬さは変わらなくて。
薬剤師たけすた水分が足りないと便が硬くなりやすい——これはその通りです。一方で、もう足りている人がさらに増やしても、余った分は尿として出ていきます。
水は、足りていない人が足したときに意味を持つもので、足りている人が増やしても便はやわらかくなりにくい——これがこの記事の結論です。
では自分は足りているのか、足りていないのか。その見分け方と、1日の飲み方を順番に整理します。
まず数字から——1日にどれくらい出ていって、どれくらい入ってくるか
「1日2L」という数字がひとり歩きしていますが、出どころをたどると意味が見えてきます。
体からは、意識しないうちに水分が出ていきます。尿と便で出ていく分、そして呼気や皮膚から蒸発していく分(不感蒸泄)です。合計しておよそ2.5L。この量を、どこかから取り戻す必要があります。

| 向き | 内訳 | 1日の量 |
|---|---|---|
| 出ていく | 尿・便 | 約1.6L |
| 出ていく | 呼気・皮膚からの蒸発 (不感蒸泄) | 約0.9L |
| 入ってくる | 食事に含まれる水分 | 約1.0L |
| 入ってくる | 体の中で作られる水 (代謝水) | 約0.3L |
| 入ってくる | 飲みものから | 約1.2L |
つまり、飲みものとして意識して入れたい量は1.2L前後が出発点になります。コップ1杯を200mLとすると、6杯ほどです。
「2Lじゃなかったの?」と思われるかもしれません。海外の目安を並べると、数字の正体がはっきりします。
| 対象 | 1日の総水分量 | 含まれるもの |
|---|---|---|
| 成人男性 | 2.5L | 飲みもの+食事の水分 |
| 成人女性 | 2.0L | 飲みもの+食事の水分 |
ここで大事なのは、この2.0〜2.5Lが食事の水分を含んだ総量だということです。ごはん・味噌汁・野菜にも水は入っています。「水として2L」と読み替えると、実際にはかなり多い量を飲むことになります。
ケンジさんじゃあ「1日2L飲め」というのは、多すぎるということですか?
薬剤師たけすた汗をかく季節や仕事なら2Lが必要な日もあります。ただ、毎日全員に当てはまる数字ではありません。自分の量は、次に説明する尿の色を目安にすると決めやすくなります。
自分に足りているかは、尿の色で見る
数字を数えるより手軽で、しかも当てになる指標があります。トイレで見る尿の色です。
- 薄い黄色〜ほぼ無色 … 足りている
- はっきりした黄色 … そろそろ1杯足したい
- 濃い黄色 … 足りていない
朝いちばんの尿は濃くなるので、日中の色で判断してください。ビタミンB2を含むサプリや薬を飲んでいると鮮やかな黄色になるため、その場合はあてになりません。水を足しても濃い茶色っぽい色が続くときは、水分以外の原因のこともあるので医療機関に相談してください。赤っぽい色の尿が出たときは、水で様子を見ずに早めに医療機関を受診してください。
なぜ「飲めば出る」わけではないのか
ここが、この記事でいちばん伝えたいところです。
口から入った水は、そのまま腸を通って便になるわけではありません。ほとんどは小腸で吸収されて血液に入り、全身をめぐったあと、余った分が腎臓から尿として出ていきます。
大腸まで届いた水分についても、大腸は「水を吸い上げる器官」です。便が大腸をゆっくり進む間に水分が吸い取られ、その結果として便の硬さが決まります。
薬剤師たけすただから水をたくさん飲んでも、大腸に長く便がとどまっていれば、そのぶん水を吸われて硬くなります。飲む量より、便がどれだけの速さで進むかのほうが大きく関わる場面があるんです。
体に水が足りていないときは話が変わります。体は水を守ろうとして、大腸での吸い上げを強めます。このとき便は硬くなりやすい。ここに水を足せば、便がやわらかくなる方向に動きます。
まとめると、こういう構図です。
| その人の状態 | 水を足すと | 次にやること |
|---|---|---|
| 水分が足りていない | 便がやわらかくなる方向に動きやすい | まず水を足す |
| 水分は足りている | 余った分は尿になる | 便の材料(食物繊維)と腸の動きを見直す |
「水を2L飲んでいるのに硬い」という方は、下の行に当てはまる可能性があります。足すところがもう水ではない、ということです。
便の材料そのものが足りているかは、便秘に薬を使う前に試したい順番|薬剤師の自宅対処マップ で2軸に分けて整理しています。
水と食物繊維は、セットにしたときの報告がある
「水だけでは変わりにくい」の裏返しとして、食物繊維と組み合わせた研究があります。
機能性便秘(病気が原因ではない便秘)のある成人を2つのグループに分け、片方には食物繊維を1日25g(水はふだんどおり)、もう片方には食物繊維25gに加えて水を1日1.5〜2Lほど摂ってもらった比較です。2か月後、水を加えたグループのほうが排便の回数が多く、下剤の使用量が少なかったと報告されています。
出典:Anti M ほか, Hepatogastroenterology, 1998年(機能性便秘の成人117名で、高食物繊維食に水を加えた場合と加えない場合を2か月比較)

この結果の読み方はシンプルです。水は単独の主役ではなく、便の材料があって初めて意味を持つ、ということになります。
薬剤師たけすた食物繊維を増やしたのにお腹が張って苦しい、という方も同じです。材料だけ増えて水が足りないと、かさは増えたのに動きにくい便になります。
食物繊維には水を抱え込む水溶性と、便のかさを増やす不溶性があり、増やす順番にもコツがあります。詳しくは 水溶性と不溶性の食物繊維はどう違うか|薬剤師が使い分けを整理 を読んでみてください。
薬を使っている方は、水の役割がもう一段大きくなる
便秘薬のうち酸化マグネシウム系のものは、腸に水分を引き込んで便をやわらかくする仕組みで働きます。引き込むための水が体に足りていないと、その仕組みが働きにくくなります。
薬剤師たけすた飲むときはコップ1杯の水で、日中もこまめに水分をとってください。腎臓の病気がある方、高齢の方、妊娠中の方、ほかの薬を飲んでいる方は、使う前に医師・薬剤師に相談してください。高齢の方や腎臓の働きが落ちている方では、血液中のマグネシウムが増えすぎることがあります。
市販の下剤の種類ごとの違いは 市販の下剤は何が違うのか|薬剤師が使い分けと注意点を整理 にまとめています。
飲み方のタイミング——1日をどう割り振るか
同じ1.5Lでも、3回に分けてまとめて飲むのと、1日かけて8回に分けて飲むのとでは、体の中での扱われ方が変わります。一度に大量に入ってきた水は、血液が薄まらないように腎臓が早めに尿にして出すと考えられています。そのため、一度にまとめて飲むより、少しずつ分けて飲むほうが体にとどめやすいと言われています。

| タイミング | 量の目安 | ねらい |
|---|---|---|
| 起床直後 | コップ1杯 | 寝ている間に失った分を戻す。胃に水が入ることが、大腸が動く反応(胃大腸反射)のきっかけになることがある |
| 朝食・昼食・夕食 | 各コップ1杯 | 食事のたびに飲むと決めておくと飲み忘れにくい |
| 午前と午後の合間 | 各コップ1杯 | 分けて入れることで尿に回りにくくする |
| 入浴の前後 | 各コップ半分 | 汗で出ていく分を前後で補う |
| 就寝前 | コップ半分 | 夜間の水分不足に備える。夜のトイレが気になる方は少なめに |
合計するとコップ7〜8杯、1.4〜1.6L前後になります。汗をかいた日はここに足してください。
起床直後の1杯だけは、優先度が違う
このリストの中で1つだけ選ぶなら、起床直後の1杯です。
寝ている間は水を飲まないので、朝はいちばん水分が少ない状態です。そこへ水を1杯入れて、朝のトイレのリズムをつくるきっかけにします。朝食をとる方は、そのまま朝食のあとの時間をトイレの時間にあてると、リズムが作りやすくなります。
薬剤師たけすた朝食をとらない方も、起きて最初の1杯だけは飲んでおくと、朝のリズムのきっかけにしやすくなります。冷たい水が苦手なら白湯でも構いません。
1日の組み立て方全体は 腸活の1日のリズム にまとめています。
コーヒー・お茶・お酒は水分に数えていいのか
迷いやすく、誤解も多いところなので、表にしました。
| 飲みもの | 数える | ひとこと |
|---|---|---|
| 水・白湯 麦茶・そば茶 | ◎ | カフェインを含まない。量の主役にする |
| 緑茶・紅茶 コーヒー | ◯ | 適量なら水分に数えてよい。コーヒーは、ふだんから飲んでいる人で水と同程度の水分補給になったという報告がある |
| 味噌汁・スープ | ◯ | 食事の水分として数える。塩分が増えすぎない範囲で |
| ジュース 甘い清涼飲料 | △ | 糖分が多い。量の主役にはしない |
| お酒 | × | 尿を増やす働きがある。水分には数えず、別に水を足す |
コーヒーについて補足します。「カフェインは利尿作用があるから水分に数えられない」と長く言われてきましたし、実際にカフェインには利尿作用があります。それに加えて、ふだんからコーヒーを飲んでいる人を対象にした比較では、1日4杯のコーヒーと同量の水とで、体の水分量の指標に差が出なかったという報告もあります。
出典:Killer SC ほか, PLOS ONE, 2014年(ふだんコーヒーを飲む成人男性50名で、1日4杯のコーヒーと同量の水を比較)
ケンジさんコーヒーは数えていいんですね。じゃあ全部コーヒーでもいいですか?
薬剤師たけすたそこは分けてください。カフェインは睡眠に影響しますし、胃が弱い方には負担になります。数えていいのは「コーヒーを飲んだぶん、水を減らして構わない」という意味までです。
お酒は別扱いです。アルコールには尿を増やす働きがあり、特に度数の高いお酒では、入れた水分より多く出ていくことがあります。飲んだ日は、その分の水を別に用意してください。
飲みすぎにも線がある
「多いほど良い」ではない、という話も書いておきます。
短い時間に大量の水を飲むと、血液中のナトリウムの濃さが下がり、頭痛・吐き気・ぼんやりするといった症状が出ることがあります。健康な方が普通に生活していて起きることはまれですが、「便秘をなんとかしたい一心で一気に飲む」といった飲み方は避けてください。
⚠️ 次に当てはまる方は、水分量を自分で決めないでください。
- 心臓や腎臓の病気で通院している方(水分やナトリウムの指示が出ていることがあります)
- むくみを主治医に相談している方
- 利尿薬を飲んでいる方
この場合は主治医の指示が最優先です。「便秘に水がいいと聞いた」と伝えれば、その方に合った量を教えてもらえます。
高齢の方には、もう一つ注意があります。体に占める水分の割合は、成人でおよそ60%、高齢になるとおよそ50%まで下がるとされています。もともとの蓄えが少ないうえに、のどの渇きも感じにくくなります。
出典:厚生労働省「健康のため水を飲もう」推進運動(2007年開始)
薬剤師たけすたご高齢の方は「のどが渇いてから」ではなく「時間で飲む」のが安心です。食事のとき、薬を飲むとき、テレビの区切りなど、きっかけと結びつけると忘れにくくなります。
本音の話
水分は「増やす」より先に「数える」ことをおすすめします。自分が1日に飲んでいる量は、思っているより多いことも少ないこともあります。まず1日分を数えてみると、足すべきかどうかが見えてきます。
薬剤師たけすた数えるのは1日で構いません。ペットボトルに1日分を入れて、そこから注いで飲む。これが一番ラクな数え方です。
薬剤師たけすた私自身は、ふだんのごはんにもち麦を混ぜています。水を足すだけでなく、便の材料になる食物繊維も一緒にとれるからです。それに、ごはんや味噌汁にも水分は含まれます。飲みものだけでなく、食事の水分も1日の量の一部として考えてみてください。
よくある質問
サキさん冷たい水と白湯、便通の観点ではどちらがいいですか?
薬剤師たけすた続けられるほうで構いません。冷たい水でお腹が冷えて不快になる方は、白湯にしてください。季節や体調に合わせて選んでください。
ケンジさん水を増やしてから、どれくらいで変化を見ればいいですか?
薬剤師たけすたまずは2週間続けてみてください。それでも変わらないなら、水の次は、食物繊維と腸の動きを見直す段階です。便秘が長く続く、血が混じる、強い腹痛や体重減少がある、急に便通が変わった、という場合は自己判断を続けず医療機関を受診してください。
サキさんトイレが近くなるのが嫌で、日中はあまり飲めません。
薬剤師たけすた一度に飲む量を減らして、回数を増やしてみてください。一気に入ると尿として早く出ていきます。夜のトイレが気になる方は、夕方以降の量を少なめにして、朝と日中に多めに割り振ってください。
ケンジさん子どもにも1日1.2Lを目安にしていいですか?
薬剤師たけすた大人の目安をそのまま当てはめないでください。必要な量は体格で大きく変わります。便が硬い・出にくい状態が続くときは、医師、薬剤師にご相談ください。
サキさん経口補水液やスポーツドリンクで水分をとるのはどうですか?
薬剤師たけすた発汗が多いときや体調を崩したときのためのもので、ふだんの水分補給には向きません。糖分と塩分が入っているため、毎日の置き換えにはしないでください。
まとめ
- 体から1日に出ていく水はおよそ2.5L。飲みものとして入れたいのは1.2L前後が出発点
- 海外の目安2.0〜2.5Lは食事の水分を含んだ総量。「水として2L」とは意味が違う
- 足りているかどうかは尿の色で見る。日中に薄い黄色なら足りている
- 水分が足りない人が足すと便はやわらかくなる方向に動く。足りている人が増やした分は尿になる
- 水と食物繊維を組み合わせた群で排便回数が多かったという報告がある。水は材料とセットで考える
- 一度に飲まず、起床直後・食事・合間・入浴前後・就寝前に分ける
- お酒は水分に数えない。心臓・腎臓で通院中の方は主治医の指示を優先する
「2L飲んでいるのに変わらない」という手応えのなさは、実はいい知らせでもあります。水はすでに足りている可能性が高く、次に見直す所がはっきりするからです。
明日1日だけ、自分が飲んだ量を数えてみてください。そこから決めれば十分です。



