· 薬剤師たけすた · 健康  · 31 min read

高齢者の便秘と薬|薬剤師が現場で気をつけていること

親の薬袋に、毎日飲む分の便秘薬がずっと入っている。歳を重ねると便秘は増えますが、その背景に別の薬が関わっていることも珍しくありません。薬局で確認している順番を整理しました。

親の薬袋に、毎日飲む分の便秘薬がずっと入っている。歳を重ねると便秘は増えますが、その背景に別の薬が関わっていることも珍しくありません。薬局で確認している順番を整理しました。

親御さんの薬袋を整理していて、毎日飲む分の便秘薬がずっと入っているのに気づいたことはありませんか。

いつから飲んでいるのか思い出せない。減らしていいのかも分からない。本人に聞くと「これがないと出ないから」と言われて、それ以上は踏み込めない——そんな状態のまま、何年も過ぎていることは珍しくありません。

サキさん サキさん

父が10年近く同じ便秘薬を飲んでいます。歳だから仕方ないと思っていました。

薬剤師たけすた 薬剤師たけすた

歳を重ねると便秘が増えるのは確かです。それに加えて、別の病気のために飲んでいる薬が便通に関わっていることもあります。そこを一度見てみる価値はあります。

この記事では、高齢の方の便秘について、薬剤師が現場でどういう順番で確認しているかを書きます。ご家族が付き添うときに何を持っていけばいいかも、最後にまとめました。


なぜ歳を重ねると便秘が増えるのか

高齢の方の便秘は、いくつかの原因が重なって起きていることがほとんどです。原因は大きく5つに分けて考えると整理しやすくなります。

歳を重ねると便秘が起きやすくなる5つの変化

起きている変化便通への関わり方
食事の量が減る便の材料そのものが減る。出るものが足りない状態になる
水分の量が減るのどの渇きを感じにくくなり、便が硬くなりやすい
筋力が落ちるおなかに力を入れて押し出す力が弱くなる
腸の動きと感覚が鈍くなる便が下りてくるのが遅くなり、便意のサインも弱くなる
薬の数が増える腸の動きや便の水分に関わる薬が混ざっていることがある

厚生労働省の国民生活基礎調査でも、便秘を訴える人の割合は年齢が上がるほど増えていくことが示されています。
出典:厚生労働省「2022年(令和4年)国民生活基礎調査」有訴者率(便秘)

大事なのは、この5つが同時に起きているという点です。どれか1つだけに手を打っても、思ったほど変わらないことがあります。


最初に確認すること——便秘の背景に「別の薬」があることも

便秘の相談では、まずお薬手帳で飲んでいる薬を全部確かめるのが基本です。

薬の中には、腸の動きや便の水分に関わるものがあります。もともと別の目的で飲んでいる薬が、結果として便通に影響していることがあります。

表に出てくる「抗コリン作用」は、腸や膀胱を動かす神経の信号を弱める働きのことです。表のうち代表的なものを図にしました。

便通に関わりやすい薬のグループの一部

薬のグループ何のための薬か便通への関わり方
抗コリン作用のある薬
(一部の胃腸薬
過活動膀胱の薬
一部の抗パーキンソン病薬)
胃腸の痛み
頻尿
手のふるえ
腸の動きを抑える方向に働く
一部の抗うつ薬
一部の抗精神病薬
気分の落ち込み
心の不調
抗コリン作用をあわせ持つものがある
第一世代の抗ヒスタミン薬アレルギー
かゆみ
風邪の症状
同じく抗コリン作用を持つ
医療用麻薬
(オピオイド)
強い痛み腸の動きが大きく落ちる。最初から便秘対策の薬を一緒に使うことが多い
カルシウム拮抗薬高血圧腸の動きが落ちることがある
鉄剤貧血便が硬くなることがある
利尿薬心不全
むくみ
高血圧
体の水分が減り、便も硬くなりやすい
アルミニウムを含む制酸剤胃酸
胃の不快感
便が硬くなることがある

1つだけ、はっきり書いておきます。この表は「だから飲むのをやめましょう」という話ではありません。全部を並べて見られる人に、一度見せてほしいという話です。

どれも必要があって出ている薬です。自己判断で中止すると、元の病気のほうが悪くなります。

薬の数が増えるほど、見直す価値が上がる

複数の医療機関にかかっていると、薬は自然に増えていきます。厚生労働省の指針でも、6種類以上の薬を服用している高齢者では薬による有害な出来事が起こりやすくなると報告されており、定期的に見直すことが勧められています。
出典:厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年

便秘は、その見直しのきっかけとして分かりやすいサインだと思っています。腸の動きに関わる薬が2つ3つ重なっていた、というのは現場で起こりうる話です。

ケンジさん ケンジさん

病院が3か所バラバラなのですが、それでも見てもらえますか。

薬剤師たけすた 薬剤師たけすた

むしろその状態こそ薬剤師の出番です。すべての薬を1冊のお薬手帳にまとめて、かかりつけの薬局に見せてください。重なりは全部を並べて初めて分かります。


酸化マグネシウムを長く飲んでいる方へ

高齢の方によく処方されている便秘薬の1つが、酸化マグネシウムです。腸の中に水分を引き込んで便を柔らかくする薬で、刺激性に比べて続けやすいタイプとされています。

ただし、高齢の方では気をつけたい点が2つあります。

腎臓の働きとマグネシウム

体に入ったマグネシウムは腎臓から出ていきます。腎臓の働きは年齢とともに落ちていくため、若いころと同じ量を飲み続けていると、体内にマグネシウムがたまることがあります。

初期のサインは、吐き気・嘔吐・立ちくらみ・力が入らない・眠気・脈が遅くなる、といった形で現れます。まれではありますが重い経過をたどった例が報告されており、厚生労働省は添付文書の改訂を指示し、製薬会社からも注意喚起が出されています。注意喚起では、便秘の方では腎臓の働きが正常でも、決められた量以下でも重い例が出たとされています。
出典:厚生労働省 酸化マグネシウム製剤の「使用上の注意」改訂(2015年10月)、酸化マグネシウム製剤 製造販売会社「適正使用に関するお願い —高マグネシウム血症—」(2020年8月・医薬品医療機器総合機構〈PMDA〉ウェブサイト掲載)

難しいのは、これらのサインが「歳のせい」「夏バテ」と受け取られやすい症状ばかりだという点です。ご家族が「最近ぼんやりしている」「食欲がない」と感じたときに、薬の可能性も頭の片隅に置いておいてください。

サキさん サキさん

母が何年も酸化マグネシウムを飲んでいます。血液検査で分かるものですか。

薬剤師たけすた 薬剤師たけすた

血液中のマグネシウムの値と、腎臓の働きを見れば分かります。長く飲んでいる方は、定期的に測ってもらえるよう主治医に伝えておくと安心です。

飲み合わせで相手の薬の吸収が落ちる

酸化マグネシウムは、いくつかの薬とくっついて相手の吸収を落とすことがあります。抗菌薬(テトラサイクリン系・ニューキノロン系)、骨粗しょう症の薬、甲状腺ホルモン薬、一部の鉄剤が代表です。

対処の基本は、飲む時間をずらすことです。何時間あけるか、どちらを先に飲むかは相手の薬によって違うので、時間を変える前に薬剤師に確認してください。高齢の方は飲む薬が多く、朝にまとめて飲む習慣になっていることが多いので、ここは一度整理する価値があります。

市販の下剤をタイプ別に整理したものは市販の下剤は何が違うのかにまとめています。


刺激性下剤を毎日使っている場合

センナ・大黄・ビサコジル・ピコスルファートナトリウムといった刺激性の下剤は、腸の動きを促すタイプで、飲んだ翌朝に便意が来るように使われることが多い薬です。頼れる薬である一方、毎日の定期使用は勧められていません。

診療ガイドラインでも、刺激性下剤は必要なときに使う頓用が基本とされています。
出典:日本消化管学会 編「便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症」(2023年)

高齢の方の場合、ここに事情が重なります。何年も続いた習慣になっていること。本人にとって「これがないと出ない」という不安が強いこと。そして急にやめると数日出なくなって、本当につらくなること。だから、いきなりやめるのではなく、順番を踏んで減らしていくのが現実的です。

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減らすなら、先に土台を作ってからです。便の材料と水分が足りていない状態で薬だけ減らすと、つらくなって結局もとに戻ります。

順番としては、次のように考えると整理しやすくなります。

  1. 水分と便の材料(食物繊維と水分)を先に整える
  2. 硬さが問題なら、非刺激性の薬に土台を移す
  3. 刺激性は毎日から1日おきへ、間隔を少しずつあけていく
  4. 整腸剤は、土台が整ってからの補助役として足す

この判断は、腎臓の働き・飲んでいる薬・持病によって変わります。自己判断で進めず、主治医か薬剤師と一緒に決めてください。

漢方の便秘薬も同じ扱いで考える

見落とされやすいのが漢方です。大黄甘草湯・麻子仁丸などに含まれる大黄は、センナと同じアントラキノン系。中身は刺激性下剤です。

漢方はおだやかな印象がありますし、そういう処方も多くあります。ただ大黄を含むものは、連用の扱いを刺激性下剤と同じに考えてください。加えて、甘草を含む処方では、むくみ・血圧の上昇・体のだるさ・血液中のカリウム低下(偽アルドステロン症)にも注意が必要です。高齢の方や、他の漢方薬と併用している方では特に気をつけたい点です。


水分——ここが一番見落とされる

高齢の方の便秘で、薬より先に手をつけたいのが水分です。理由は3つあります。

1つ目は、のどの渇きを感じにくくなること。体が水分を必要としていても、本人の自覚として出てこないことがあります。

2つ目は、夜中にトイレに行きたくないから、意識して水を控えている方が多いこと。転ぶのが怖い、家族を起こしたくない——理由はどれも、もっともなものです。

3つ目は、利尿薬を飲んでいる場合。体から水分が出ていく方向に働く薬なので、便も硬くなりやすくなります。

水分の落とし穴とこまめな分け方

この3つが重なると、便の材料があっても硬くて出せない状態になります。そこに下剤を足しても、根っこが水分不足のままでは同じことの繰り返しになりがちです。

現実的な飲み方

起きてから夕方までの間に、少しずつ分けて飲むのが現実的です。朝起きたときにコップ1杯、食事のたびに1杯、入浴の前後に1杯。この分け方なら、夜間のトイレを増やさずに量を確保しやすくなります。

厚生労働省の「健康のため水を飲もう」推進運動では、飲み水として1日およそ1.2L(コップ6杯ほど)が一つの目安とされています。ただし、これはあくまで一般的な成人の話です。
出典:厚生労働省「健康のため水を飲もう」推進運動(2007年開始。1日に失われる水分約2.5Lのうち、飲み水で補う量の目安を約1.2Lとしている)

⚠️ 心不全・腎臓の病気などで水分量の指示が出ている方は、この目安より主治医の指示が優先です。自己判断で増やさないでください。

ケンジさん ケンジさん

夜中のトイレが心配で、夕方以降は飲まないようにしているそうです。

薬剤師たけすた 薬剤師たけすた

その工夫自体は悪くありません。だからこそ、朝から夕方までの間にしっかり確保しておく形にしましょう。時間帯を決めて控えるのと、1日を通して控えるのは別の話です。


食事の量が減ると、便の材料も減る

もう1つ見落とされやすいのが食事量です。

年齢とともに食が細くなると、便の材料そのものが減ります。材料が少なければ、腸がどれだけ動いても出るものが足りません。「あまり食べていないのに出ない」と不思議に感じるのも、もっともです。ただ、材料が少なければ出るものも少なくなるので、仕組みとしては自然な流れでもあります。

無理に量を増やすより、いま食べているものの中身を入れ替えるほうが続けやすい方法です。味噌汁に野菜を足す、間食を果物にする、といった方法があります。食べる量を増やさずに、食物繊維と水分を足せます。

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薬局で私がよくすすめているのは、白米をもち麦入りに変えることです。食べる量を変えずに、いつものごはんで食物繊維を足せます。

ただし、急に食物繊維を増やすとお腹が張ることがあります。少しずつ進めてください。食材の選び方は食物繊維が豊富な食材TOP10に書いています。

噛む力や飲み込む力が落ちている場合は、食材を変える前に歯科か主治医に相談してください。むせやすい方に繊維の多いものをそのまま勧めるのは危険です。


こんなときは薬を足さずに受診を

⚠️ 以下に当てはまる場合は、便秘薬を買い足すより先に受診してください。

  • 急に便秘になった(これまでと明らかに様子が違う)
  • 便に血が混じる・黒いタール状の便が出る
  • 強い腹痛や嘔吐をともなう
  • 体重が減ってきている
  • 便が細くなってきた
  • 何日も出ていないのに、水のような便だけが少しずつ出る
  • ぼんやりする・食欲がない・力が入らないなど、いつもと様子が違う

下から2つ目は、高齢の方で特に気をつけたい項目です。硬い便が直腸で栓のようになり、そのすき間から水のような便だけが出てくることがあります。見た目は下痢ですが、中身は便秘です。

何日も出ていないのに水のような便だけが出るときは、下痢止めを足さないでください。 状況が悪くなることがあります。

お腹が張って痛みが強いときも同じです。腸閉塞が疑われる状況で下剤を使うと危険なことがあるため、自己判断で薬を増やさず受診してください。


家族ができること——持っていくもの3つ

付き添いで薬局や病院に行くとき、これがあると話が早く進みます。

持っていくものなぜ役に立つか
お薬手帳
(全部の医療機関の分を1冊に)
市販薬も含めた重なりや飲み合わせを、1か所で確かめられる
市販薬とサプリの
パッケージ
手帳に載らないものが便通に関わっていることがある
便通のメモ
(出た日・硬さ・薬を使った日)
「たまに出ます」より判断が速い。1〜2週間分で十分

便の硬さは、見たままの言葉で構いません。「コロコロした小さい塊」「ひび割れたソーセージ状」「表面がなめらかで柔らかい」。このくらい伝われば、十分に判断材料になります。

サキさん サキさん

本人が「大丈夫」としか言わないので、実際のところが分かりません。

薬剤師たけすた 薬剤師たけすた

カレンダーに出た日だけ丸をつけてもらう形が一番続きます。ご本人が書けない場合は、ご家族が気づいた範囲でかまいません。空欄があっても役に立ちます。


よくある質問

サキさん サキさん

父は便秘薬を10年飲み続けています。すぐにやめさせたほうがいいですか。

薬剤師たけすた 薬剤師たけすた

自己判断で止めるのはおすすめしません。数日出なくなってつらくなり、結局また強い薬に戻ることが多いからです。まず水分と食事の土台を作りながら、薬剤師か医師と一緒に間隔をあけていく進め方が現実的です。

ケンジさん ケンジさん

酸化マグネシウムは市販でも買えます。親の分をまとめ買いしてもいいですか。

薬剤師たけすた 薬剤師たけすた

腎臓の働きと飲み合わせの確認が先です。腎臓の働きが落ちている方や、抗菌薬・骨粗しょう症の薬を飲んでいる方は注意が必要なので、買う前に薬剤師に声をかけてください。

サキさん サキさん

母が最近ぼんやりしています。便秘薬と関係があることはありますか。

薬剤師たけすた 薬剤師たけすた

決めつけはできませんが、可能性として頭に入れておく価値はあります。酸化マグネシウムを長く飲んでいる方では、眠気やだるさが体内のマグネシウムと関わっていることがあります。受診のときに「いつからどう変わったか」を伝えてください。

ケンジさん ケンジさん

水を飲むようにすすめても、本人が嫌がります。

薬剤師たけすた 薬剤師たけすた

水でなくてかまいません。お茶・味噌汁・スープ・ゼリー飲料でも水分は入るので、好きなものを決まった時間に出すと続きやすいです。むせやすい方は、とろみをつける方法を主治医か管理栄養士に相談してください。

サキさん サキさん

市販の浣腸を家に常備しておいてもいいですか。

薬剤師たけすた 薬剤師たけすた

出口で固まって出せないときの手段としては選択肢になります。ただし毎回そこに頼る形は避けたいところです。高齢の方では直腸を傷つけることもあるため、常備する前に一度薬剤師か医師に相談してください。


まとめ

  • 高齢の方の便秘は、食事量・水分・筋力・腸の感覚・薬の5つが重なって起きていることが多い
  • 便秘の背景に、別の目的で飲んでいる薬が関わっていることがある。まずお薬手帳を全部まとめて見せる
  • 目的は薬を止めることではない。全体を見られる人に一度見せて、見直せるかを判断してもらうこと
  • 酸化マグネシウムは高齢の方と腎臓の働きが落ちている方で体内にたまりやすい。腎臓に問題がなくても重い例が報告されているため、眠気・だるさ・吐き気は薬の可能性も考える
  • 刺激性下剤は頓用が基本。減らすなら土台を作ってから、間隔をあける順番で
  • 大黄を含む漢方は、中身は刺激性下剤と同じ扱いで考える
  • 水分は、夜間のトイレを避けて日中も控えていないかを確認する。朝から夕方までに分けて飲む
  • 急な便秘・血便・体重減少・水のような便だけが出る状態は、薬を足さずに受診

高齢の方の便秘は、1つの原因を突き止めて終わる話ではありません。重なっているものを1つずつ外していく作業です。その入口として、お薬手帳を1冊にまとめて薬局に持っていくところから始めてみてください。それだけで見えることが、思ったより多くあります。


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